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ぷらいべーと・たいむ

ぷらいべーと・たいむ

憎しみの行方

 

遺書

泣きながら
遺書を書いた
全部あいつのせいにして死んでやる
ちょっとは「悪かった」と思うかな
ちょっとは苦しんでくれるかな
苦しめばいいさ
私の苦しみをわからせてやる

わたしは今日死にます
お父さん、お母さん
今まで育ててくれてありがとう
それなのに、命を粗末にしてごめんなさい
でももう耐えられません
毎日毎日
あいつにおびえて
生きていても、つらいことばかり
お父さんもお母さんもわかってくれなかった
誰もわたしをわかってくれない
生きていても、いいことなんて何一つ無い
今日も
あいつに蹴られて殴られて、「死ね」といわれた
だから死にます

涙が紙にポタポタ落ちた
インクがにじんだ
ふと思った
わたしは何のために生きてたの?
あいつのために生きてたの?
あいつが「死ね」と言ったから死ぬの?
そんなの嫌だ
絶対嫌だ
わたしはわたしのために生きるんだ

そう思ったら
なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた
お母さんに見つからないよう
ビリビリに破って、ごみ箱に捨てた

 


 

いやーなキモチ

憎らしいこのこいつ
こいつの目の前で死んでやる
こいつの瞼に焼きつかせてやる
二度と離れないように
どんな死に方がいいかな
ここから今すぐ飛び降りようか
それとも
ナイフで首を掻き切ろうか
いやいや
このまま殴り殺されて
死んでしまおう
そしたらこいつが一番悪い
みんなこいつを悪者にするだろう

わたしの中の
いやーな気持ち
どす黒い海からわいてきて
ぐるぐるぐるぐる渦を巻く

 


 

いい子

あいつのことを
「ほんとはいい子なんだよ」
と、大人たちは言う。

じゃー、わたしのほんとは何?
「いい子、いい子」といわれて
いい子じゃなきゃいけないと思って
いい子を演じてきた、
わたしのほんとはいったい何?
わたしは、ほんとは悪い子なの?
心に、どす黒い風が吹き荒れている。

 


 

凍りついたカラダ

学校から帰ったら
お母さんの自転車が無いのに、ドアが開いていた
もしかして…
息を殺してドアを開けた
やっぱり…
でっかい靴、あいつの靴だ
あたりをキョロキョロ
いるはずのないお母さんの姿を必死で探した
やっぱりいない
あいつがわたしに気づいた
「ただいま。…お母さんは?」
「知らん。」
あいつは答えた
家にはあいつと二人きり

大丈夫、大丈夫
わたしだってもう大人
なんとかうまくかわせるさ

わたしはそっと二階へ上がった
やっぱりあいつもついて来た

大丈夫、大丈夫
わたしだってもう大人
普通にしゃべってればいいさ

あいつは柔道の技をかけてきた
わたしは倒れた
あいつは寝技をかけようとした
かわそうとしたわたし
急にあいつに力が入った
わたしは逃げようとした
だけどまったく動けない
あいつのものすごい力
わたしはやっぱり女なのか…

強い強い力が欲しい
あいつを超えた力が欲しい

押さえ込まれたまま沈黙が流れた
「こわいんか。」
低い声がした

その瞬間
カラダが凍りついた
封印された過去の記憶
いっきによみがえった
覚えてたんだ、こいつも…

お母さん、早く帰ってきて
お願いお母さん、早く帰ってきて

どれぐらい時が過ぎただろう
あいつは何もしなかった
ただ黙ってわたしを押さえ込んでいた

ガラガラガラガラ
ドアの開く音
「ただいまー」
お母さんの懐かしい声

あいつの力がやっと抜けた
お母さんが上がってきた
なんでもなかったかのように、やり過ごす二人

お母さんだ、お母さんだ、お母さんだ
涙が出そうになった
「トイレ」
あわてて階段を駆け下りた
トイレのドアをばたんと閉めた

凍りついたカラダがとけた
こわかった、こわかったよ、こわかったよぅ
いっきに涙があふれ出た

 


 

へへらへら

笑ってた
ただ笑ってた
へヘラヘラヘラ へヘラヘラヘラ

あいつに触れられたとき
あいつに押さえ込まれたとき

だって怖かったんだもん
わけ分んなかったんだもん
…別にどうでもよかったんだもん

でもね、独りになると涙が止まらないの
苦しいの、とってもとっても苦しいの
ねぇ、誰か来て…
私を抱きしめて
そしてそのまま絞め殺して…

 


 

いえなかった言葉

塾が終わると、お母さんはあいつの家に行く
わたしをおいて、お母さんが行ってしまう

「じゃあね、おやすみ。」
お母さんの笑顔
「バイバイ、お母さん。」
わたしも笑顔で手を振った

『行かんといて。』

いえなかった、その言葉
ぐっとこらえた、その言葉

ドアが閉まった
わたしは鍵をかけた
お父さんはテレビを見続けている
わたしは二階へ上がった
布団の中で、ひとりで泣いた

 


 

精いっぱいの強がり

大人が言った
「夜、お母さんいなくて寂しいね。」
「ううん。全然。もう慣れてるから。」
わたしは笑いながら答えた
「慣れてるからって、まだ子どもでしょ。」
そいつは笑った
(ほんと生意気な子ね)
そんな感じでそいつは笑った

そう、わたしは子ども
寂しいに決まってるやん
子どもなんだもん
でも、だからって、どうすればいいの?

『慣れてるから』は、わたしの精いっぱいの強がり
自分をまもるための手段

(オマエ ナンカニ ナニガ ワカル)
わたしはそいつを睨みかえした

自分の部屋で、ひとりつぶやく
「慣れてるから」
涙がこぼれおちた

 


 

無感情無感動

泣いたらね、
お母さんに怒られるから
お父さんに怒鳴られるから
あいつに殴られるから
自分のことが嫌いになるから
なにも感じないようにするの

なんにも感じない
ぜんぜん痛くない
ぜんぜんつらくない

でもね、
涙が勝手にあふれてくるの
涙が悪いの
だってわたしは泣きたくないもん
でもね、
涙が止まらないの
どうしてもどうしても止まらないの

ロボットになりたい
なにも感じなくてすむように
無感情、無感動
そしたら涙も止まるかな
そしたらもう怒られないよね
そしたらもう殴られないよね
でも自分のこと好きにもなれないね

 


 

お父さんの涙

あいつがお父さんを殴った
お父さんもあいつを殴った
あいつはお父さんをもっと殴った
お父さんもあいつをもっと殴った
大きな大きな音がした
窓が割れた
あいつが出ていった

きらきら光ったガラスの破片
お父さんの目から涙がこぼれた
初めて見たお父さんの涙
わたしはお父さんを抱きしめた
ぎゅっとぎゅっと抱きしめた
お父さんもわたしをぎゅっとした
お母さんも泣いていた

三人で一緒に寝た
割れた窓ガラス
すきま風がひゅーひゅーはいった
「寒いね。」
「うん、寒いね。」
お母さんが毛布をかけてくれた
ちょっと暖かくなった

 


 

壊れたキモチ

楽しい楽しい夏休み
田舎からおばあちゃんがやってきた
大好きな大好きなおばあちゃん
二年ぶりに会えた

あいつも家にやってきた
ハラハラドキドキ ハラハラドキドキ
(お願い、けんかしないでね。)

飛び散ったガラスの破片
血だらけのお父さん
上がりこんできた警察

おばあちゃんはびっくりしていた
「もう帰る。」
「もう二度と来んからね。」
繰り返し繰り返しそうつぶやく
わたしはなんにも言えなかった
胸がキリキリ痛かった

お母さんがわたしに言った
「おばあちゃんと一緒に行きなさい」
久しぶりの田舎、悪くないな

駅までの道
お母さんとおばあちゃんとわたし
わたしはふざけてはしゃいでいた
お母さんがわたしに言った
「あんたもこれで最後かもしれないのよ。」
「ちゃんとしなさい。ちゃんと。」
胸が詰まった

駅までの道
三人は黙ったまんま
涙がじわっと浮かんできた
お母さんに見つからないよう
こっそり拭いた

電車の中
おばあちゃんはまだつぶやいている
「二度と来んからね」
わたしは空想の世界
田舎の学校、新しい生活、新しい友達
今度はどんなわたしになろうかな。

 


 

暗いトンネル

「ただいま。」
ドアを開けたら、お母さんが出迎えてくれた
と、思ったら
「あいつが荒れてるから」
と言って、お母さんはドアを閉めた

閉ざされたドア
佇むわたし
ランドセルを背負ったまま
あてもなくブラブラブラ
お母さんはわたしをまもってくれてるんだ
分ってるけど分ってるけど、涙が止まらない
道ゆく人が振り返る

出口の見えない暗いトンネル
放り込まれたわたしたち
あてもなくさまよう
光を探して
このトンネルはどこまで続いているんだろう
もう歩き疲れたよ

お腹が減った
もうお父さんが帰ってくる時間
そろそろいいかな
家に帰ろう

 


 

病院に行った日

お父さんとあいつがけんかした
わたしはこわくてコタツにもぐった
あいつはわたしの頭を蹴った
頭が割れた

わたしは布団の中
心配そうなお母さん
お父さんとあいつは必死でタウンページを見ている

ちょっといい気味
もっともっと痛いふり

深夜の救急病院
運ばれたわたし
あいつが一瞬やさしくみえた

 


 

憎しみの行方

「すべて自分の兄弟を憎むものは人殺しです。
そして、人殺しはだれも自分のうちに永遠の命を
とどめていないことをあなたは知っています。」
―ヨハネ第一3:15

・・・だけど
私は兄を憎んでた
そう、憎んでた

兄さえいなければ、幸せになれたのに…
私に芽生えた憎しみの芽は
押さえようとすればするほど、大きく大きく膨らんだ

兄をして悲劇のヒロインを演じていた私
あいつの目の前で死んでやる
いや、あいつに殺されてやる
殺されたい
そんなことを考えていた日々

あの時のアイツの痛みがよく分る

ねぇ、お兄ちゃん
でも、お兄ちゃん
私も苦しかったんだよ

同じ苦しみの中で
お兄ちゃんは外に、私は内に対して攻撃していたんだね。

いつか、すべてを包み込んで愛し合える日が来るのだろうか

「愛は憎しみに変わる」という
それならば、憎しみが愛に変わることはあるのだろうか
いつか、腹を割って話せる日がくるのだろうか

身体の痛みは心の痛みに
心の痛みは憎しみに
憎しみは、いつの日か悲しみに変わってた。
それに気付いた時、
アイツの痛みがわかった。

同じ痛みを抱いてたんだね。
つらかったんだね。苦しかったんだね。
どうしようもなかったんだね。
心が痛いよ。涙が溢れた。

すべてを抱きしめて生きてゆければよいのに

憎しみは悲しみにかえて自分で癒してみせる
それでも心が痛くてどうにもならない時は
ねぇ、誰か、そばに来て
何もいわずに抱きしめて
そっと ぎゅっと 抱きしめて

 


 

行き止まり

あいつの幸せをどこかで妬んでる。

わたしの苦しみの内容を全くしらないあいつ
わたしのもがきに全く気付いていなかったあいつ

あいつの幸せをどこかで妬んでるわたし

わたしはわたしの道を歩もう。

 




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